代表挨拶


諸石 寿朗|Toshiro MOROISHI

領域代表

熊本大学大学院生命科学研究部 教授

Professor, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University


学術変革領域(B)「ゴーギャン生物学」発足にあたって

本研究領域は、「細胞の多様性はどのように生まれ、どう変化していくのか?」という問いに、生命科学研究者と合成生物学者が相互補完的な立場で挑もうというものです。多細胞生物の動作原理とも言えるこの難解な問いに、自由な発想でチャレンジする機会を与えていただき、心より感謝しております。

 

近年のシングルセル解析技術の進展により、多細胞生物が想像以上に多種多様な細胞集団から構成されることが明らかになってきました。これまでに知られていた異なる細胞種間の多様性はもちろん、同一の細胞カテゴリーに属すると考えられていた個々の細胞にも遺伝子発現パターンや細胞表現型において個性があることがわかり、このような細胞多様性の変容が「クローン選択」として認識され、例えば発生過程における質の高い細胞の選択やがん化における前がん病変の形成など、生老病死のあらゆる場面で多様性変化の重要性が示唆されています。今後、RNAを中心としたシングルセル解析技術のコストも低下していくことが予想され、まさにポストシングルセル時代を見据えた細胞多様性の理解が求められていると言えます。

 

そこで、本研究領域ではゲノム生物工学、分子・細胞生物学、個体機能解析という多分野の研究者を結集し、時間を遡った細胞系譜追跡やクローン単離、細胞間相互作用の記録などを可能にする技術基盤を開発することにより、ライフステージごとに個々の細胞が周辺環境への適応と淘汰を繰り返しながら細胞集団としての多様性を形成していく過程を調べます。これにより、多細胞生物の生命らしさを環境適応と多様性形成の過程から明らかにしていきます。また、その過程の中で様々なバックグラウンドを持つ研究者とインタラクションしながら新たな研究の問いを見いだし、本領域研究を一つの学問体系へと昇華させていきたいと考えています。

 

2024年4月