ヒトの体は約30兆個もの細胞で構成され、200種類以上の細胞が存在するとされています。さらに、近年、個々の細胞を詳しく調べる1細胞解析技術が急速に進展し、同じ種類の細胞でさえも遺伝子の働きや細胞の活動などが異なり、個々の細胞には多様な個性があることがわかってきました。このような細胞の多様性は、体の成長や老化、そして病気の発症など、ライフサイクル全般で変遷していくことも示唆されてきており、生命科学研究における細胞多様性の概念は大きな変革期を迎えています。フランスの画家ポール・ゴーギャンはその代表作「我々はどこから来たのか・我々は何者か・我々はどこへ行くのか」で人生の意味を問いかけましたが、同様に細胞たちの過去・現在・未来についても、多様性形成の観点からその成り立ちと行く末についての理解を深めることが求められていると言えます。
そこで、「ゴーギャン生物学」を標榜する本研究領域では、時間を遡った細胞系譜追跡や細胞同定、細胞間相互作用の記録などを可能にする技術基盤を開発し、ライフステージごとに個々の細胞が周辺環境への適応と淘汰を繰り返しながら細胞集団としての多様性を形成していく過程を調べます。これにより、細胞多様性の形成と変遷という観点から生命を理解していくことを目指しています。
我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか(D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?) ポール・ゴーギャン 作(1897)